週刊金曜日 編集後記

1483号

▼共和党大会でのトランプの大統領指名受諾演説のさわりを先週号で紹介、「ヘイトスピーチ」と評した。メキシコ国境から「凶暴な精神障害者らが押し寄せている」などと根拠なく移民・難民を攻撃する。難しい単語は出てこない。内容も高校英語の水準。インターネットで検索できる人は気軽に聴ける。プロパガンダ特有の繰り返しの多さに辟易するが、それも分かり易さの要素だ。民主党の「エリート」臭に反感を抱く大衆が彼を熱狂的に支持する理由だろう。

 民主党のハリスは人格も教養も真逆のようだ。リベラルを自称する『朝日新聞』7月25日1面トップには「新風沸き立つ 支持率互角」などの見出しが躍った。これこそ「リベラル・バイアス」で甘いと思う。「ヒトラーを下品にしたような男」を2016年に大統領に選んだ米国の民主主義など私は信用しないが、CIAの元主任分析官の自国社会に対するプロの慧眼には刮目する。「反エリート自体が権威になっていく権威に弱い社会こそ、大衆迎合政治の温床だ」。都知事選でも示された冷徹な政策論争を完遂できない日本政治への警句では?(本田雅和)

▼7月15日夜、暗くなった都内でぼんやり外を眺めた。「海の日」のその日は、東京・三鷹駅で無人電車が暴走して6人の死者を出した事件の発生から75年にあたった。この4月には最高裁判所が事件の犯人として死刑判決が確定した元国鉄職員・竹内景助氏(病死)の遺族による再審請求の特別抗告を棄却していた。一審では無期懲役、二審では弁論も開かれずに死刑判決、そして最高裁で8対7の多数決で極刑が確定した。時の最高裁長官は田中耕太郎氏だった。

『三鷹事件・巨大な謀略の闇』(福田玲三著、完全護憲の会)や『三鷹事件 無実の死刑囚 竹内景助の詩と無念』(石川逸子著、梨の木舎)などから私は竹内氏のことを知るようになった。事件の夜は暑い日だったようだ。夕飯を終えて湯あみをしたあと、散歩がてら外に出てアイスキャンディを買った(今の私と変わらぬ労働者の姿じゃないか)。だが、米軍の施政下、人生を狂わす歯車はその時すでに動き出していた。

 本誌で再審請求の詳細をお伝えできなかった。力不足を恥じる。(小林和子)

▼子どもの頃読んだ本は何冊もありますが、中でも好きなのが『エルマーのぼうけん』シリーズ(福音館書店)です。ストライプや水玉のりゅうが登場するこのシリーズは、「りゅうって本当にグレーや土色なのかなあ?」と思っていた子ども(私だ)の心にみごとに刺さったのでした。エルマーがりゅうの背中に乗って空を飛んだり、動物たちの力を借りて事件を解決していくのが楽しくて、「私もこんな冒険がしたい」と思ったものでした。独特の色使い、独特のタッチの挿絵も大好き。

 しかし先日、悲しいニュースがありました。作者のルース・スタイルス・ガネットさんが亡くなったのです。そのニュースをきっかけに調べると、今、福岡の福岡アジア美術館で「エルマーのぼうけん展」をやっていることがわかりました。これは昨年から東京→兵庫→福岡と巡回した展覧会で、福岡が最終展示とのこと。すごく行きたい! のですが、どうにも都合が合わない。知らなかった私が悪いことは承知の上で、主催者さん、もう一度巡回していただけないでしょうか。(渡辺妙子)

▼昨年、妻の従姪が大学でK―POPダンスサークルを立ち上げたと聞き、大学の学園祭にお邪魔しました。今年も先日、その発表会がありました。あいにく用事で行くことがかないませんでしたが、創設2年目でメンバーも増えたそうです。そんな中、読者の方からK―POPの5人組ガールズグループ「New Jeans」の一人、ハニさんが歌う松田聖子さんの「青い珊瑚礁」のことを教えていただきました。可憐な歌声に、しばし聴き惚れてしまいました。

 調べてみると、ハニさんはオーストラリアとベトナムの二重国籍。オーストラリア生まれとのことで、彼女の家族がベトナム戦争後、国を離れて海外に逃亡した「ボートピープルなのではないか」という臆測がベトナムのネットで呟かれ、ハニさんに対する批判が殺到したと知りました。

 ベトナム戦争終結から来年で50年。ベトナム戦争を知らない若い世代が、こうした理不尽な"口害"にさらされる現実を悲しく思うばかりです。「言葉の広場」8月のテーマは「戦争について考える」です。ご投稿をお待ちしています。(秋山晴康)