週刊金曜日 編集後記

1488号

▼数年前、映画『かもめ食堂』のフィンランドロケコーディネーターもされたムーミン研究者、森下圭子さんの来日時にお話をうかがった。「映画の撮影時も労働法はきっちり守られ、休憩の1時間前から助手がそわそわしだす」とか「落ちこぼれをださない教育制度がすばらしいと言われるけど、それは人材を育てないと貧しい小さい国が発展しないし、落ちこぼれを出すと経済効率が悪いというシビアな考えからの政策でもある」とか興味深い話がたくさん聞けた。

 留学以来、長所短所を体験した上でフィンランドでの生活を選んだ森下さん。個人登録制の国に暮らしても同国では安心感があるが、日本のマイナンバー制度には嫌悪感があるという。「政府・国家への信頼感がまったく違う」からで「日本に暮らしていたら反対しますね」と話していた。ですよね。政府は出生証明書に医師等の電子署名がなくても出生届のマイナポータル提出を可能にしたが、人の生死情報のオンライン管理がさらに進めばどんな悪用が生じることか。考えただけで怖い。(宮本有紀)

▼10歳上のバンド仲間が「レコードをもらってくれないか」と言ってきました。「終活の一環。好きな音楽はユーチューブなどで見ている。CDも聞かないからもらってくれると助かる」というのです。

 私の部屋は本とCD、レコードであふれています。音楽好きの妻に聞くと「1、2枚なら良いよ」と言います。私は「楽器を演奏しているんだよ。そんなわけないじゃん」と心で思いながら、「まあ、妻が仕事に出ている間に運び込めばいいか」と考えていると、休みで家にいるというのです。

 まいったなぁ。仲間の家を訪ねると、やはりLPレコードが200枚以上ありました。仲間の車で私の家まで運んでもらい、妻に平謝りして廊下に置いてから1年以上たちました。「業者を呼んで買い取ってもらうからね」と言われ続け、ようやく先日、部屋に運び込んで片付けを終えました。

 やはり、レコードの音はいいですね。最近、人気が復活しているのも当然でしょう。東京都内に残る名曲喫茶やジャズ喫茶めぐりもしたくなりました。(伊田浩之)

▼「おら、本が作りてぇ」と岩手県二戸市浄法寺町、稲庭岳の麓で暮らす旧知のばあちゃん、小山田ミナさんから、写真家の大西暢夫さんに電話があったのはおよそ2年前。ミナさんは1960年、家族とともに28歳でこの開拓地へやってきた。90歳を超えてなお、石臼を6時間回して大豆を挽き、24丁の豆腐を作っていたという。

今年4月、「小室等のコムロ寄席 人めぐり編Vol.1」でミナさんを取り上げた、できたての写真絵本『ひき石と24丁のとうふ』(アリス館)を前に「1年前に亡くなったばあちゃんは何を残したかったのか」と大西さん。目が不自由だったが最後まで一人、淡々と生きるミナさんの笑顔はすてきだった。あの豆腐、食べたかったな。

 さて、大西さんがゲストを務める次回の「コムロ寄席」は9月12日(木)19時、東京・Space&Cafe ポレポレ坐(03・3227・1445、東中野駅)で「アールブリュットと職人 驚異的な手元を見つめる」をテーマに行なわれる。案内が遅くなって申しわけないが可能であれば......。(吉田亮子)

▼「金曜日から」を掲載しているこちらのページのことを社内では「奥付」と総称しています。ただ本来、奥付というのはタイトルや発行人、発行年月日などが記載された出版物に対する責任を示す下記の部分です。実はこちらの表記、7月5日(1479)号から印刷所の社名が変わっていることに気が付かれた方はいらっしゃいますでしょうか。

 本誌は創刊以来、「凸版印刷株式会社」に印刷製本をお願いしてきました。その凸版は昨年10月、持株会社体制に移行した際、「TOPPAN株式会社」に社名を変更。さらに今年4月には本誌の印刷製本業務を関連会社である「図書印刷株式会社」に移行させ、そちらも7月に社名変更となり、現在の「TOPPANクロレ株式会社」となった次第です。4月の段階で印刷所の表記を変更するのが筋ではありますが、7月に社名が変わることが前提であったことに加えて、先方の希望もあり、奥付の変更は7月5日号からとなりました。この場を借りてご報告させていただきます。(町田明穂)