週刊金曜日 編集後記

1491号

▼小さな男の子の頭上に、ミサイルがいま落とされようとしている。赤い空間が男の子を起点に鋭角に切り裂かれているのに(遠近と速さとを表しているのか)、最初は気づかない。GAZAの文字とともにその構図に気づいた時、思わず小さな声を上げた。

 8月に東京都内の「ポルトリブレ」で開かれたパレスチナ・ポスター展「ガザの声が聞こえますか?」で目にしたフアード・アルヤマニさんの作品だ。

 ガザではたくさんの子どもたちと一緒に作家も殺された。報道によれば、昨年末、詩人のリファアト・アル=アリール氏が空爆で亡くなった。ガザの経験を記録に残す活動をしていたそうだ。なぜ、イスラエルはパレスチナの街をこれほどに破壊し、子どもたちを殺すのか。彼・彼女らのもつ底力、育んできた文化の力をおそれているのではないか――ある方は私にそう教えてくれた。

 特集記事のタイトル文字に添えられているのは、カフィーヤ(パレスチナのスカーフ)の柄とオリーブの葉だ。レイアウトを組むデザイナーさんがあしらってくれた。(小林和子)

▼本誌9月6日号の「きんようぶんか」で紹介した村上浩康監督の『あなたのおみとり』。ポレポレ東中野(東京)での公開初日にお邪魔しました。上映後の特別トークでは、文豪・森鷗外の孫で訪問診療医の小堀鷗一郎さんが登場。小堀さんは、本誌2020年12月25日号の「死を忘るるなかれ」において、「仕事から帰ってきて駐車場でバッタリ倒れて死ぬ。これが理想」と、自らの死生観を語ってくれたことがあります。

 小堀さんは、村上監督の父親の看取りを「点数をつけるなら90点」「あなたのお母様が素晴らしい」と称賛。村上監督が医療・介護の「2025年問題」について問いかけると、「いい質問だね。これで100点になった」と会場の観客を笑わせていました。

 映画の後、昔、よく通っていた蕎麦店をのぞきましたが、ランチ時ということもあり満席で、残念ながら入店を断念。「スダチかけそば」発祥の店とのことですが、私のおすすめはランチセットの天丼。手打ち蕎麦との相性が絶妙です。「言葉の広場」10月のテーマは「私と料理」。ご投稿をお待ちしています。(秋山晴康)

▼NHKの朝ドラ「虎に翼」が終わってしまいました。毎朝リアルタイムで観たくなる朝ドラなんて初めてだったので残念です。周囲にはファンが多くてよく話題になり、さらん日記作者の西岡由香さんとは毎日のように感想をやりとりしていました。さらん日記にも何度も登場しましたよね。

 長崎の原爆をテーマに漫画を描いている西岡さんにとって「虎に翼」で描かれた原爆裁判は特に逃せない話題。加えて、長崎原爆に遭いながら国が指定する被爆地域の外だったために「被爆者」と認められていない「被爆体験者」が被爆者健康手帳の交付を求めた裁判の判決が9月9日にあって時期がぴったり。9月20日号のさらん日記で掲載しました。

 9月27日号は「虎に翼いろはかるた」。「と」の「虎は金なり」の金メダルの上にある飾りは、作者曰く「ドラマでは東京地裁として描かれる名古屋市市政資料館の建物の入口上にデザインされている、天秤のような彫刻です」とのこと。細部にも愛があります。「ろ」は「ロス五輪より虎翼ロス」。まさに。私もです(泣)。寅ちゃん、さよーなら、またいつか!(宮本有紀)

▼崔善愛さんが本号の「編集委員から」にも書いているが、9月16日に行なわれた「コンサート・自由な風の歌18」は、なにより共演したヴァイオリンの戸島さや野さんとフラメンコ舞踏の北原志穂さん、崔さんの3人がたのしそうにパフォーマンスしていて、観客のこちらもワクワクだった。ショパンはもちろん、ガーシュインのジャズあり、サラサーテの「カルメン幻想曲」では北原さんの迫力の踊りありと、バラエティに富んだ内容だった。北原さんは本誌2022年12月9日号で崔さんがインタビュー。スペインでヒターノ(スペイン語でロマの男性)やヒターナ(女性)と生活しながらレッスンに励んだと聞いていたので、実際観る舞台は感激だった。

 9月は崔さん主催の集会がもう一つ。関東大震災での朝鮮人虐殺が起きた1日に行なわれた第48回「9・1集会」だ。村山由佳さんとの共著『私たちの近現代史 女性とマイノリティの100年』(集英社新書)を3月に出版した朴慶南さんらが講演した。101年前の虐殺を今年も心に刻んだ。(吉田亮子)