週刊金曜日 編集後記

1493号

▼自民党総裁選の投票日、仲良くしている他社の記者・編集者仲間の間で「軍国主義でジェンダーバッシングの高市なんてあり得ない」「高市が日本初の女性首相なんてヤダ!」「高市、本当に最悪。安倍の亡霊か」「なんでアメリカはハリスなのに日本は高市???」などとLINEが飛び交った。石破茂氏が総裁と決まったところで「良かった、高市よりまし」とみんなほっとしつつ、「石破がマシという日本って本当にダメですね」という投稿に深く首肯してこの話題は終わった。

 ただ、直後の総選挙である。「負ける総裁」であってほしいので、高市早苗氏のほうがよかったのかもしれないとも思ったりする。いずれにしてもげんなりする総裁選で表紙が変わっただけ。自民党内には裏金議員も統一教会(現・世界平和統一家庭連合)関連議員も存在し、さまざまな疑惑が解明されたわけでもない。何の説明も議論もないまま解散、総選挙。何の「信を問う」のか。このままうやむやにして政権を担っていいですかという問いだとしたら、答えは「NO」しかない。(宮本有紀)

▼「そろそろまた海外に出てみたほうがいいかなあ」と思いながらもう何年も果たせずにいる。私はこれまでの人生で2回しか日本の外に出たことがない(ただ1回目でいきなり半年かけて12カ国を旅した)が、実は2回とも旅の最中に首相が辞任してそこから自民党政権の崩壊につながっているのだ(笑)。というわけで、何か海外取材の企画でも提案したら編集部で旅費を出してくれるかな?

 特に1回目、「55年体制」崩壊を経て半年ぶりに帰国した時などは「もしかしたら俺は別の日本に帰ってきちゃったんだろうか」という気もした。いや、実を言えば今も内心どこかに、そんな思いを引きずっていて......そんなわけで今年も、31年前に帰ってきた日と同じ秋雨の降る成田へとふらりと足を運んだ。はたして再び、ここから飛び立つ日がやってくるのであろうか? そして戻ってきたらどんな"日本"が待ち受けているだろう? 願わくは『猿の惑星』で「自由の女神」を前に絶叫したC・ヘストンのような未来が待ち受けていないことを。(岩本太郎)

▼社民党党首の福島みずほさんの対談集『グレートウーマンに会いに行く』(現代書館)の出版記念のつどいが10月8日、東京都内で開かれました。

 対談集は、ユーチューブの動画配信が基で、22人が登場しています。たとえば、今年8月7日に亡くなられたウーマンリブの旗手で鍼灸師だった田中美津さん(享年81)は〈わたしは、第三者として「あなたのままでいいよ」と同じ目線に立って伝えます〉と話し、福島さんは〈(その)メッセージは、ウーマンリブや女性解放にもつながる部分がありますね〉と応じています。貴重な記録ですね。

 記念のつどいでは、同書に登場する社会学者の上野千鶴子さんが「法曹や労働、地方、反原発、介護など、福島さんの顔の広さを感じる。つきあい方が並ではないので、質問が通り一遍ではない。(記録に)残してくれたのが本当にうれしい」とあいさつするなど、お祝いムードと衆院選への勝利の決意に満ちていました。動画はいまも見られますが、本はやはり大切です。お薦めです。(伊田浩之)

▼「袴田さんに自由を! そうして我々はやっと過去の過ちから解放されるだろう。無実の人に濡れ衣を着せ、死刑囚監房に送ったという過ちから」。米国出身の元プロボクサー、ルービン・カーターさんの生前の言葉だ。カーターさんは殺人の冤罪で服役し、後に無罪を勝ち取った。その物語は映画化され、ボブ・ディランの歌にもなった。カーターさんの力強い言葉は、本誌10月11日号で取り上げた映画『拳と祈り』で聞ける。

 カーターさんは、袴田巖さんが長期間にわたり自白を強要された密室の取り調べや、捏造された血染めの「5点の衣類」についても詳しく知っていた。「一人が誤って有罪とされ刑務所行きになるなら誰もが同じ目に遭うだろう」。その言葉は重い。袴田さんから自由を奪った杜撰な捜査と、誤った司法判断を放置したのは社会全体の罪だ。袴田さんは自由を取り戻したが、再審請求審での証拠開示の基準や手続きはいまだ明確ではない。法医学者の鑑定や証言が警察や検察の意向に左右されやすい問題も残ったままだ。(平畑玄洋)