週刊金曜日 編集後記

1495号

▼連載「私が愛する『町中華』」の津田修一氏に出会ったのは労働運動情報ネットワーク「レイバーネット」が定期的に開催している映像祭でのこと。一般の市民らが制作・発表する「3分ビデオ」のコーナーで、労働問題や人権問題等を描くハードな話題に混じり、ひときわユルめな町中華映像ルポを発表して注目を集めていたが、中でも昨年夏の回で発表された、近場にある町中華の閉店話を取材した作品は観客に大ウケ。懇親会の席で「活字でもどうですか」と私から声をかけ、約1年がかりでようやく実現にこぎつけた。

 多忙な津田氏との打ち合わせの場所は、もちろん町中華。今年の5月連休には私の家に近い東京・中野区にある「代一元」中野店で一献傾けながらの「作戦会議」を行なった。文章からも滲んでくる飄々としたキャラクターがそのままの津田氏から「なぜか町中華で食べるカレーが美味いんだ~」などと聞かされるだけで和む♪

 連載はいよいよ佳境。読者から津田氏に「あそこの町中華もいい」との情報提供も相次いでいるそうです。お楽しみに!(岩本太郎)

▼俳優の西田敏行さんが亡くなった。76歳だった。一番印象深い西田さんの代表作を思い浮かべようとしても、たくさんあってすぐに出ない。そういう思いをした人は多いのではないだろうか。

 NHKの大河ドラマに多く出演していたことから、やはり大河の数々が思い出される。「おんな太閤記」「武田信玄」「翔ぶが如く」「葵 徳川三代」「八重の桜」。豊臣秀吉や西郷隆盛など全く特徴が異なる人物を、見事に演じきっていたのには改めて驚かされる。

 中でも心に残るのが「山河燃ゆ」(1984年)の天羽忠役だった。第2次世界大戦時の日系人一家を主人公にしたドラマ。忠はアメリカで生まれ育ったが、日本に渡り、陸軍に召集されフィリピン戦線に送られる。そこで通訳として米軍にいた兄賢治(松本白鸚さん=当時は松本幸四郎)と相まみえる。兄の放った銃弾が誤って忠の足に当たってしまう――。

 ドラマ終盤、兄弟が和解する場面は味わい深く、西田さんでしか演じられなかった役だったと思う。NHKオンデマンドで観ることができるので、ぜひお薦めしたい作品だ。(小川直樹)

▼映画『拳と祈り』の舞台挨拶を見に行った。再審無罪を勝ち取った袴田巖さん(88歳)の姿を追ったドキュメンタリーだ。姉のひで子さん(91歳)が東京の映画館に駆けつけ、無罪判決について「うれしい」と心境を語った。笠井千晶監督から「ひで子さんの表情も変わった。お気持ちは変わりましたか」と水を向けられると、「180度ぐらい変わりました」と答えた。「(巖さんが死刑囚だった時は)ニコニコしちゃおれません。どの集会でもおっかない顔をしていたと思う。でも面会に行った時はせめて私ぐらいはと、常に笑顔で接しておりました」と振り返った。当時の苦労のほどが伝わる。今は晴れて巖さんの選挙権も回復し、衆院選の投票所入場券が届いたという。だが、奥西勝さん(89歳で獄死)が死刑判決を受けた名張毒ぶどう酒事件に目を転じると、再審の扉すら開かれていない。冤罪の疑いがあり、いわゆる「袴田事件」と同様、日弁連が再審請求を支援してきた重要事件なのに。来年1月4日公開の映画『いもうとの時間』は事件を検証し、妹・美代子さん(94歳)の苦悩を描く。同作にも注目したい。(平畑玄洋)

▼夏の日に立ち寄った三省堂書店神保町本店で『百年の孤独』が文庫になったことを知った。ノーベル文学賞を受賞したガブリエル・ガルシア=マルケスの代表作である。ずっと気になっていた作品だった。一時期はまっていた筒井康隆氏が推していたからだ。文庫本を手に取ると「解説 筒井康隆」とあった。ならば読まねばなるまい、頑張って読むぞ。

 ちなみに、閉店後の店内で書店員とともに静かに本を読むという三省堂のイベントでは『百年の孤独』の会は満席だった。なんと、酒の持ち込みも可なので、焼酎「百年の孤独」を飲んだ方もいたかも。この本は今でも平積みで、傍らには『「百年の孤独」を代わりに読む』という本も積んであって面白そうなので買ってしまった。店に行かなければ文庫になったことを知らないまま読まずに終わっていた。これぞネット書店では味わえないリアル書店の強みである。

 プルーストの『失われた時を求めて』も読んでいないが気になっている作品だ。読まずに死ねるか。さて、読者の皆様がいつか読みたい本は何ですか?(原口広矢)