週刊金曜日 編集後記

1496号

▼10月27日投開票の衆議院選挙で自公が過半数割れしたため、大政局となっています。政界再編を含め、先行きが見通しにくいですね。

 ただ、自公が数の力で「民意」を無視して強行してきた防衛費倍増や敵基地攻撃能力の保有、裏金問題・モリカケサクラ問題をごまかすなどの「悪政」をこれまでのように続けることが不可能になったのは間違いない。

「民意」を政治に反映させる好機が訪れたとも捉えられます。そのためにはどうなればよいのか、私たちはどう行動すればよいのかについては意見が分かれるでしょう。

 弊誌の編集委員だった故筑紫哲也氏が好んだ「多事争論」(多くの人が多くの事柄について争って論ずることが、誤った選択をしないための道である)が思い起こされます。弊誌は幅広く見解を紹介してゆきたいと思います。「異論反論オブジェクション」がある方は「言葉の広場」などにぜひご投稿ください。読者はじめ多くのみなさまと、この国の社会、社会のありかたについて論じてゆきたいと切に願っております。(伊田浩之)

▼国政選挙で特に気になるのは、二つの法改正に関係する議席数だ。一つは憲法で、改正発議に必要な3分の2以上を賛成派が獲得することを案じる。今回、与党は過半数を割ったが、自民党会派は無所属議員を入れて増えるし、日本維新の会や国民民主党も賛成派と計算する。ただ、3分の2を超えるには立憲民主党の賛成が必要なため簡単ではないとひと安心。もう一つは民法で、選択的夫婦別姓制度導入の改正ができるかどうか。維新の動向が不明だが、賛成すれば半数を超える。または自民が党議拘束をはずせば賛成議員の票で可決も可能だ。こちらは実現を期待し、議会運営に注目している。

 女性議員が過去最多になったとはいえ15・7%では喜べないが、嬉しいこともある。本誌メディア欄筆者のお一人、尾辻かな子さんが当選し、再び議員に。「権力をもってしまうので議員としてメディアチェックは難しい。何か別の形で書かせていただけたら」と嬉しいお申し出。今後もご協力をお願いするつもりだ。(宮本有紀)

▼「お母さんは投票できた?」。10月25日号の本欄の拙文を読んだ複数の方から聞かれた。ご報告します。無事に投票できました。

 特養に入っている母は、施設の車両で投票所に連れて行ってもらい、投票を済ませ大満足。「お母さん、最近物忘れがひどいんですよ、今日もいま言ったことを忘れている」。施設の職員に投票の手続きについて確認したところ、新型コロナを理由に渋られただけでなく、そんな言葉が返ってきたので驚いたのだ。92歳の母の物忘れはたしかに進んでいるかもしれない。だが、だからといって「政治的な主張が消えたり、変わったりしたとは思えない」と、毎日電話で話をしている姉はいう。職員さんは大変だろうが、「投票は無理」ときめつけるより、協力方法を今後も考えてもらえるとありがたい。

 今回の選挙でも、障害がある方が円滑に投票できるよう、選挙管理委員会が知恵を絞ってさまざまな対応をしたことが報道されている。時代は少しずつ変わっていることを実感する。(小林和子)

▼写真家・大西暢夫さんが墨の取材で出会った墨型彫刻師7代目の中村雅峯さん(92歳)は、千字文を墨型(木型)に彫る。人さし指の爪の範囲に9~12文字程度という作品を見ていたら、あるとき自身のテーマの一つ、アール・ブリュットとつながったとか。両者に通底するのは、ひたすら緻密な手作業。アール・ブリュットは障害を持つ作家が多いが、「作者に障害があるかないかなんて分ける必要はない」と大西さん。「コムロ寄席」で9月、写真も交え、小室等さんとあつく語りあった。

 というのも大西さんが昨年7月から館長を務める滋賀県近江八幡市にある美術館「ボーダレス・アートミュージアムNO―MA」で12月15日(日)まで、小室さんが企画・構成した「ボーダレス―限界とあわい―」が開催中。谷川俊太郎さんとアール・ブリュット作家、音楽家による三つの表現が交差する空間になっているという。12月1日、7日・8日はライブも。くわしくはホームページ(https://no-ma.jp/)まで。(吉田亮子)