週刊金曜日 編集後記

1503号

▼北朝鮮の脅威や「反国家勢力」から韓国を守ることを口実に「戒厳令」を宣言した尹錫悦大統領の行為は、民主主義の根幹を揺るがす暴挙以外のなにものでもない。

 しかし、韓国国会を掌握している最大野党「共に民主党」はそれを党利党略に利用している節がある。李在明代表は昨年11月、公職選挙法違反で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けた。判決が確定すれば、被選挙権が制限され、次の大統領選には出馬できなくなる。彼は「司法リスク」を抱えているのだ。そのために党としては、尹大統領を弾劾訴追、逮捕に持ち込み、早期に次期大統領選を実施したい思惑もあるのだろう。尹大統領の逮捕は当然だが、両者の政争は慎重に見極めるべきだ。

 韓国はいま、179人が死亡した旅客機事故で国家的惨事の真っ只中にある。一刻も早く事故原因を究明し、再発を防ぐ必要がある。権力闘争、国政の混乱で国のコントロールタワーが機能不全に陥るのならば、一番の被害を被るのは韓国市民である。これ以上の政治の停滞は許されない。(尹史承)

▼1月4日、東京の映画館ポレポレ東中野は『いもうとの時間』を目当てにした観客で満席だった。同作は女性5人が死亡した名張毒ぶどう酒事件を追い続けた東海テレビのドキュメンタリー映画だ。本号で制作秘話を取り上げているのでご覧いただきたい。

 犯人と目された奥西勝さんは無実を訴えながら89歳で獄死したが、かねて冤罪の可能性が指摘されている。自白調書を根拠に死刑判決が下されたが、有罪を裏付ける客観的な証拠は存在しない。証言者の供述内容は途中で変更され、他の証拠も検察が操作を加えたことが公判で明らかになっている。証拠開示が遅々として進まない点も他の冤罪事件と共通する。

 公開初日となった同日、映画でナレーションを務めた俳優の仲代達矢さん(92歳)が舞台挨拶し、「生きている限り真実を待つというテーマに非常に感動してこの作品に携わった」と語った。唯一の再審請求人である岡美代子さんは95歳を迎えた。再審の扉を閉ざす裁判所と対峙し、まさに時間との闘いを続けている。(平畑玄洋)

▼雨宮処凛編集委員が今年は「生誕50年、デビュー25周年」にあたるという。本誌初登場は当時の平井康嗣編集部員執筆による「『金曜日』で逢いましょう」だった。私は2006年6月23日号で「『マンガ嫌韓流』ネットが仕掛ける韓国・朝鮮人攻撃」(瀬下美和氏執筆)の記事を進めるにあたって、作家の小林エリカさんから紹介されたのが雨宮さんだった。淡々と取材に応じ的確な指摘をされていたのが印象に残った。同年7月に本誌書評委員に、07年12月には編集委員に就任された。

 思い出深いのは、非正規労働者の問題が日本以上に深刻だった韓国取材に同行したときだった(『怒りのソウル』)。かなりクセの強い取材対象者とも絶妙な距離感で、さまざまなエピソードを引き出していた。当事者への圧倒的な共感力とクールな思考、凄かった。

 熱望されている文在寅前大統領との対談は文氏がどの取材も受けないということで実現せず。ともあれ1月27日の東京・ロフトプラスワンのお祝い、推しの一人として暴れちゃおう!(小林和子)

▼怪優はっぽんさんのアパートに引っ越して、早くも1年になります。大家は、生前の怪優をずっと支えてきたHさんで、しかも1階にははっぽんさんが毎年末にコンサートを行なっていたライブハウスのオーナーOさんが住んでいます。気心の知れた人たちに囲まれ、住み心地は快適です。

 ただ、1年がたつのに、いまだ本や書類が片付いていません。いったん書棚に並べたものの、入りきらずにもう一度段ボール箱に戻し、収納スペースに積み上げたままのものも。今年は、その本・書類の整理と、もう一つ叶えたいことがあります。くだんのライブハウスでは、毎月2回、素人さんの公演の会を催しているのですが、そこに出演し、ギター片手に持ち歌を披露できたら......。

 それから、はっぽんさんが亡くなって今年が七回忌。友人・知人らの中には「ぜひ」という者も多いため、偲ぶ会を開きたい。そんなことを考えています。「言葉の広場」1月のテーマは「2025年の展望」、2月は「『健康』を考える」です。(秋山晴康)