週刊金曜日 編集後記

1506号

▼二度目とはいえ、トランプショックは大きい。温暖化防止の国際的枠組み「パリ協定」からの脱退も、協定自体の実効性に疑問の余地はあるものの、超大国が"地球環境に責任は持たない"と主張しているように聞こえ、心がすさむ。

 地球沸騰化問題と直結して考えていいかわからないが、2024年のミカンはよくなかった。30年来、柑橘類を予約購入している愛媛県の地域法人は「大不作」と評していた。県農林水産研究所も「30年間で最も悪い」という。山口県の兼業農家・Yさんも「今年ほど酷い年はありません。売るものがないのですから」という。

 気温上昇のため無農薬が年々難しくなるという話はきいていたが、ここまでとは。農業法人から「ネーブルは十分な用意ができないので注文を受けられない」と電話をいただいた。もし今年も同じ条件なら「ミカン栽培からの撤退」も考えねばならぬと送られてきた通信に書かれている。消費者として何ができるか考える。ここは政治の出番のはずだが。(小林和子)

▼格差への不満、将来への不安が世界中で渦を巻く。行き場のない憎悪が「既得権益」者とみなす相手に向けられる。SNSでしか情報を得ない人たちが「犬笛」に従い、煽られて攻撃性を増す。そうした支持者たちは、トランプ就任式に集まったビリオネアの既得権益が政権内部で巨大化することに不快感を覚えないのか? トランプやイーロン・マスクが笛の主人だからか? 国内でも「ジャパンファースト」と政治家が煽る。ファーストの一方には必ず排除される側がある。排除の刃はいずれ自分に向けられるのだと、犬笛の踊り手たちに知らせる方法を探りたい。

 話は変わりますが、4月から本誌サイズがタテ幅3センチほど長くなり、従来のバインダーに収納できなくなります。ボックスファイルは今後も利用できますが、どちらも、今後作り直すかどうかわかりません。在庫僅かです。ご入用の際はお早めにご注文ください。バインダーは2月下旬に値引き販売を予定しています。(上野和樹)

▼今号で映画『Brotherブラザー 富都のふたり』を紹介した。監督対談や識者談話を通じて、映画から読み取れる社会的なテーマがいかに多岐にわたり、深いものであるかが分かった。紙幅の都合で取り上げられなかったが、対談は死刑制度にまで話題が及んだ。映画の終盤に登場する教誨師は実際に死刑囚と対話を続けてきた僧侶だという。監督は作品づくりに生かすため、現場の刑務官にも取材したそうだ。「こんなテーマの作品を撮って検閲を通りますかね」と逆に心配されたエピソードも披露してくれた。ちなみにマレーシアでは長らく死刑執行がなく、2023年には強制死刑制度が廃止されたという。

 話を聞いて特に印象的だったのは、出稼ぎ労働者や非正規滞在者に関する議論だ。経済的なご都合主義でその労働力に頼りながら、生活者としての権利が大きく制限される。その非条理は、日本にいる外国人労働者の窮状とも重なって見える。映画はさまざまなことに気づかせてくれる。(平畑玄洋)

▼東京・丸の内の帝国劇場が老朽化による建て替えのため2月に休館となります。クロージング公演として昨年12月から上演されているミュージカル『レ・ミゼラブル』の千秋楽のチケットが何とか取れ、今から楽しみにしています。『レ・ミゼラブル』では、青年革命家・アンジョルラスの亡くなる場面が泣くほど素晴らしかったのですが、前回観たときはオリジナル版から演出が代わったため、肝心の場面が差し替わっていました。

 今年は俳優座劇場も4月末で営業終了の予定と聞きます。最近の俳優座劇場では、一昨年末の無名塾『等伯―反骨の画聖―』公演しか観ていませんが、先日、無名塾の知人と会ったとき、『等伯』の舞台の話で盛り上がりました。

 私にとって観劇は、精神的バランスを取るために欠かせない、非日常を豊かに過ごす「心の健康」術の一つです。できるだけ時間をつくって劇場に通い、癒やされています。「言葉の広場」2月のテーマは「『健康』を考える」です。ぜひご投稿ください。(秋山晴康)