1512号
2025年03月14日
▼戦場ジャーナリストの五十嵐哲郎さんに今号で、戦死したウクライナ人の音楽教師についてルポを書いてもらった。「夫は、資源を巡る戦争の犠牲になったというのでしょうか」という妻の言葉が心に突き刺さった。パワーポリティクスの現実があるとはいえ、米国が資源獲得に向けた経済安保を優先し、見返りにウクライナが望む「安全の保証」を蔑ろにしていいものだろうか。3年前にロシアが始めた「力による現状変更」は無条件に是正されなければならない。ロシアの侵略行為を許せば法の支配に基づく国際秩序は崩壊する。子どもの連れ去りや小児病院へのミサイル攻撃などロシアによる戦争犯罪は不問にすべきではない。
五十嵐さんは言う。「どのような形で停戦するのか現時点では見通せないが、ひとつ確かなことは戦争が続く限り、この瞬間にも命が失われ、悲しみに暮れる家族が増えていることだ」(平畑玄洋)
▼原発関係の裁判で、これはひどいなぁと感じる判決が相次いでいます。今号では記事2本を掲載しました。裁判所は、公平・公正・中立でも客観的な判断をするところでもありません。三権分立の一角である「国家権力の一部」です。
広島地裁判決後に、原告住民側の胡田敢弁護士は「貸した金を払えといった裁判では一応、公平な判決が出るかもしれないが、裁判官も上意下達の世界に生きる公務員。ほとんどの裁判官がああいう(国策に沿った)判決を書く。憲法にのみ従うという信念を持った裁判官はほんとうに少ない。しかし、裁判を起こさずに沈黙していれば、原発をなくそうという人がいなくなる。がっかりしすぎることなく、続けることに意義があります」と話しています。
私が、伊方原発問題に積極的に携わってから約30年になります。これからも原発の問題点を息長く伝えていきます。(伊田浩之)
▼花畑の花をよく見ると、茎は針金で、花びらはスーパーのレジ袋──。今週号で紹介している美術家・丸山純子さんのこの作品をみた桑原和久さんは「静寂が心を満たす不思議な感覚になる」と書く。
桑原さんがこれまで取り上げた美術家は多様だが、私は密かに共通点を見出している。金儲けに執着が薄い、もっといえば無頓着な作家、という一点だ(お金持ちか否かではない)。この時代、それでいいのかという思いもめぐるが、創作するおもしろさに憑かれた方々の話を聞くのはめちゃ楽しい。
昨夏、本誌で紹介した「ART IS LIVE―ひとり民主主義へようこそ」の開発好明さんが、同展の成果を理由に今年度の芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。3・11の放射能汚染を可視化する皮肉の効いた作品でも知られる開発さんに文化庁がお墨付き? 彼を十数年前に紹介してくれた桑原さんに社会が追いついたということか。(小林和子)
▼先日、ノンフィクション作家の久田恵さん宅にお邪魔し、ランチ会を開きました。私の友人のほか、久田さん主宰の人形音楽劇「パペレッタ」仲間も参加。「千葉で公演をやったでしょう」「いや、あれは東京・江東区大島でしたよ」など、公演の各自の思い出を紡ぎ合わせながら事実を見極めていく作業(?)となりました。
パペレッタの演目は『赤ずきんと狼の話』『はだかの王様』など。私は狼や王様役で歌も歌いました。テレビ局の30分番組で紹介されたこともあります。
久田さんはシングルマザーとして稲泉連さんを育て、大宅壮一ノンフィクション賞を親子で受賞。著書『母のいる場所 シルバーヴィラ向山物語』(文藝春秋)は、母親の介護をモデルとしたもので、その後、父親も看取りました。「言葉の広場」の4月のテーマは「育児・介護」です。ご投稿をお待ちしています。(秋山晴康)