1516号
2025年04月11日
▼学生時代、周りには一風変わった、魅力的な先生たちがいました。当時、丹下健三氏と並ぶ建築学の権威と言われた教授は、スナックの2階で週1回の個人塾を開催。教えるのはプラトン、ハイデッガー、世阿弥など、哲学や芸術に関する講義で、他大学の学生だけでなく社会人も受講していました。もちろん無料で、です。
英文科の教授は、大学は違ったのですが、チャペルでの講義に招いてくれました。ある縁で意気投合し、モンゴル語などを一緒にかじったこともあります。結局、語学は身につきませんでしたが。
寺院参道に咲く山吹の花が奇麗だったので、飲み屋でその話をしたところ、隣から「太田道灌だね」と声がかかりました。「はい、実の(簔)一つだになきぞ悲しき、ですね」と答えると、「よく知ってるねえ」。話を聞くと、文学部の准教授で、「僕の講義を聞きにきてよ」と誘われました。あのとき、どんな理由があったか覚えていませんが、講義には行くことができませんでした。その後、准教授は40代前半の若さで亡くなりました。「言葉の広場」5月のテーマは「花・植物」です。ご投稿をお待ちしています。(秋山晴康)
▼今号の「音楽」で相田冬二さんがドラマ「ホットスポット」のサウンドトラックを紹介している。このドラマが面白い。テレビ放送は最終回を迎えたが、配信サービスで見られる。宇宙人の父と地球人の母との間に生まれた高橋孝介(演・角田晃広)が物語の中心人物。外見は「普通のおじさん」だが、「能力」を使うと怪力を発揮したり、高速で走れたりする。普通のSFとは異なり、この能力の使われ方がいたって地味。体育館の天井に挟まったボールを取ったり、スマートフォンの保護フィルムをきれいに貼ったり......。その顛末にじわりと笑いがこみ上げる。
この能力のお陰で交通事故から免れた主人公の遠藤清美(演・市川実日子)と、その幼なじみが織りなす会話にも引き込まれる。その一つが宇宙人であることをカミングアウトするくだり。にわかに信じない人もいるが、一人はあっさり受け入れる。「最近だと海外からの移住者とかも増えているし、半分地球人なんだよね? うちも父親は元々九州の人なのね」。主人公の清美は思わず「多様性を受け入れるとはこういうことなんだ」と心の中でつぶやく。この温かさが全10話に通底する。
(平畑玄洋)
▼本誌のサイズを変更したら書店での見え方がどうなるか気になる。週刊誌は発売日に面出しといって、目立つように表紙を前面にする。サイズが大きくなったので、いっそう手に取られて売れてほしい。
出版取次といわれる販売会社が書店に配本している。今回のサイズ変更にあたって、流通上支障がないか、事前に確認した。発行元は毎号、書店への配本部数を取次と交渉している。かつては取次を定期的に訪問していた。東京・千代田区の日販、板橋区の中央社、栗田出版販売、新宿区のトーハン、文京区の大阪屋、太洋社と回っていた。やがて太洋社が倒産、栗田出版販売と大阪屋は合併して大阪屋栗田(現・楽天ブックスネットワーク)になり、中央社はトーハンと協業し、今や取次は日販、トーハン、楽天のみだ。部数交渉も訪問せずメールなどで済ますようになったので味気ない。当時は仕入窓口に行くと交渉だけでなく雑談もしたものだ。なつかしい。
2004年に入社。書店・取次に対して本誌と書籍の販促を行ない、11年から定期購読担当としても読者様と向き合い、なんだかんだで20年、4月に定年退職します。さようなら。(原口広矢)